プロジェクトの内容
甚大な被害をもたらした2004年スマトラ沖地震津波での被災を契機に,インド洋沿岸の津波防災対策が国際的な協力体制の下に進められている.それらは,太平洋津波警報システムと同様のシステムをインド洋に適用することを目指したインド洋津波警報システム(IOTWS)の構築を中心としたものである.高性能であるが,高価格であり,かつ経験や専門家の乏しいインド洋沿岸諸国にとっては,システムの維持管理は難しい.これでは数十~数百年の周期で発生する大規模津波災害を常に監視し続けなければいけない津波防災対策としては,十分に機能しない可能性が高い.また,システムの寿命と津波の再現周期を考えると,防災上,本当に貢献する機会も極めて限られているといえる.そこで,インド洋沿岸諸国の発展途上国に導入する津波警報システムでは,津波工学の専門家や,津波災害の経験の少ない地域においても継続的に運用が可能なものでなければならない.地域の住民には,警報システムがどのような機能を持つもので,警報が出た場合にはどのように行動すればよいのかを理解してもらわなければならない.このように,効果的な津波防災対策を実施するためには,津波防災に関わる様々な要素を包括的に勘案した総合的な津波防災戦略が不可欠となる.
本研究では,特に津波災害の経験に乏しい発展途上国を対象として,効果的な津波防災対策を実施する際に必要な総合的な津波防災戦略のモデルを提案するとともに,いくつかの発展途上国への導入を通して提案する戦略モデルの有効性の検証を行っている.総合的津波防災モデルと発展途上国へ導入の戦略モデルの有効性検証のために,2つの提案を行っている.1つ目は,津波シミュレーション結果に基づいて配置した宗教施設を利用した避難シェルターを用い津波発生時の被害を極小化する方法である.宗教施設は,津波外力に対する耐力を持ち,また,住民により長期的に維持管理が行われるため,避難シェルターとして利用するというものである.2つ目は,多目的ブイを用いた津波警報システムを組み合わせた津波災害軽減システムである.ここで用いる多目的ブイを用いた津波警報システムは,「安価」で「シンプル(維持管理しやすい)」で「日常的に利用可能」な多目的ブイに,津波検知機能も搭載しネットワーク化することで,インド洋沿岸でも維持管理可能な津波観測網を構築するというものである.
以上のような提案を用い,効果的な津波防災対策を実施するために,どのような調査・研究・活動を実施すべきかを整理したものが,図の総合的津波防災戦略フレームである.
総合的津波防災戦略フレームワークの概念図